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「・・・・・・くせぇ」
開口一番。そんな諺が似合う程のセリフが、執務室に響いた。
「・・・や、やっぱりですか?」
「どんだけ付けてやがる」
長い黒髪を高く結い上げた青年が顔を顰める。
「いや、その・・・・「私が悪いの。」
途中、部屋に入ってきた少女が遮って答えた。
「どう言う事さ?」
バンダナを頭に付け、橙色の髪を上に上げた青年が問う。
「アレンくん香水持ってなくて、私が一つ合うものをあげようとしたんだけど・・・その、落としちゃって。」
それを拾おうとした少女は、蓋が外れてしまった小瓶の中身を全て浴びてしまったのだ、と話した。
「お風呂入ったんだけど、匂いは如何しても取れなくて・・・・すいません」
「アレンくんが謝る事じゃないわ、私の所為だし」
「それにしたって・・・くせぇぞ、かなり」
慌てた様に謝る彼女の声に重ねる様にして、黒髪の青年は低く声を出した。
「う・・・ごめんなさい」
「謝る事無いさー、それにさ、結構アレンに合ってんじゃねェの?俺はこーゆーの好きさ。」
「・・・有り難う御座います、ラビ。」
頭をくりくりと撫でる彼に、少し安心感を覚えながら少女は礼を述べた。
「今日は兄さん研究室で仕事してて居ないから、簡単に説明だけするわ。資料は其処にあるから、目を通しておいて。今回は―」
「・・・此処がグラース?」
「みたいさね。どっこもかしこも香水工場さ」
「(よりによって香水の街だなんて・・・)」
はぁ、と溜め息をついて項垂れる。
何も香水被った後に、こんな所に出さなくても。
『・・・グラース?あのフランスの?』
『そう。アクマは報告されてる限りじゃレベル2が1、2体程度らしいの。街で一番大きな工場の地下で、ありえないくらい花が咲き誇ってるって』
何も地下に咲かなくても。
ありえない奇怪に、思わず頭に手を当てて悩んでしまった。
『・・・・、そう言えばグラースって香水の街じゃねーの?ってこたぁ、その一番デカい工場ってのは香水工場さ?』
橙の髪の青年はふと顔を上げて問いかけた。
『うんまぁ、アレンくんが被っちゃった香水もそこのなんだけど。地下に咲いた花がイノセンスの可能性があるから、調べてきて欲しいの』
「何も香水被った後に香水の街に送り出さなくたってなぁ・・・・(はぁ)」
「言えてら。俺もそう思うさ」
未だに花の甘い香りが抜けない髪と肌を見やり、また一つ溜め息をつく。
「・・・さっさと終わらすぞ。こうくせぇ匂いの中に居たら気が狂いそうだ」
ただでさえくせぇのに、と語尾に付け加えて、つかつかと街中を歩いていく。
その足の速さに、少女と青年は足早に其処を去ったのだった。
数日後、報告されていたより多いアクマを倒し、街の地下を彩る花の下にイノセンスを見つけて帰ってきた三人は、それぞれに別の場所へと戻る。
ただ今までと違うのは、黒髪の青年が少女と会う度に「くせぇ」と一言、顔を顰める事なのだ。
食堂、廊下、洗面所。至る所で「くせぇ」を繰り返される。
「・・・・もう匂いは取れた筈なのに、何で臭いって言うんだろう・・・?僕、ちゃんとお風呂入ってるしなぁ・・・」
確かにあのあと、自分の分と彼女の分の香水を買ったけれど付けては居ないし。
一人疑問を解けず、金髪を立てた様な髪をした大柄な男性に呼ばれ、執務室に向かう途中の廊下で。
「あ、神田」
「・・・・・・・・・」
黒髪の青年の後姿を追いかけて、軽く声をかけた。
「お早う御座います、神田。」
「・・・・・・・・・」
無言のまま、執務室へと足を向ける。
「神田も執務室に行くんですよね?僕もご一緒して良いですか?」
「・・・・どうせ行く場所は同じじゃねぇか」
はぁ、と軽く息を吐いて先を歩く。
「有り難う御座います」
ふわ、と。
まるで花の様に微笑んでみせた少女に、顔を見せないようにして青年は足を早めた。
「あ、待って下さいよ神田!」
「うるせぇ」
前を歩く青年について、執務室に滑り込む。
「あ、お早う神田くん、アレンくん。任務どうだった?」
「胸クソ悪過ぎだ、あんな町中くっせぇトコに」
「流石に僕もキツかったですけどね・・・町中花の香りが充満してて入った途端に香水が香ってきますし」
はぁぁ、と思わず溜め息をついた。
「それはまたご苦労だったね。」
「アクマも報告の数よりかなり多かったぞ。街が殆ど壊れなかったのが不思議だ」
「そこはほら、神田が強いからでしょう」
近寄って話す少女に、すと後退りする様にして離れて行く。
「・・・近寄んな、くせぇ」
流石にこう何回も「臭い」と言われると頭に来る。
「・・・何回も何回も臭い臭いって、僕そんな臭いですか!?お風呂もちゃんと入ってるし、確かにあの後香水は買ったけど付けてませんよ!?一体どんな匂いがするんですか!?」
ぐ、と詰め寄られて、後ろに一歩下がる。
間を置いて出た一言は。
「・・・・・・・・・甘ったりィ」
「は?」
予想外の反応に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「・・・甘い?」
腕を近づけて、くんと鼻を鳴らす。
そんな甘い匂い、してない筈だけど。
ふと、長身の帽子を被った男性が口を挟む。
「どんな香りがするって?」
「・・・・だから、甘ったりィ」
「そうかい?そんな香りはしないけど・・・・あ、そうそう」
研究室の方にすたすたと歩いて行こうとしたかと思うと、くるりと振り返ってにんまりと笑う。
その顔が妙にヘンで。
「・・・・何ですか?」
「いや、何にも。そうそう、神田くん」
「何だコムイ、冗談なら聞かねぇぞ」
怪訝そうな表情が更に険しくなって、より鋭い眼光を向ける。
「・・・好きな人の香りは、甘く感じるらしいよ」
にっこり。
そんな擬態語が似合う笑みを残して、そのまま執務室を出てすたすたと廊下を進んでいく。
「・・・・・・・・・・は?」
一瞬何の事だか理解出来ず、青年ともみ合った状態で固まったままそのドアを見つめる。
ははははと言う笑い声に我に返り、しどろもどろになった少女はわたわたと頭を抱えて混乱していた。
ふと青年を見やれば顔を真っ赤にした状態で激昂寸前。
「てめ・・・っ、コムイ、如何言う事だ!」
声を荒げて廊下へと走り抜ける。
「そのまんまの意味だよー」
飄々と言い放ち、青年の初太刀を避ける。
「待ちやがれ!」
「待てって言われて待つ馬鹿は居ないよー」
「・・・・・・・・・・・・・、」
ドアをそっと押して、走っていく背中を見つめる。
少女漫画の様で何だか笑ってしまうが、顔のにやけが止まらない。
その後、黒髪の彼女に買った香水を渡しに行ったら、「嬉しそうな顔してるねね。何かあった?」などと問い詰められてしまった。
数日後、教団の中で黒髪の青年と白髪の少女が腕を絡めて歩く姿を目撃した探索部隊とエクソシストが数人、医療班に運び込まれたらしい。
Perfume
ふと鼻をついたパフュームの香りに 貴方の面影を重ねて
□ミズキ様素敵な小説ありがとうございます!掲載するのが遅れてすみませんでした。
香水をつけなくとも、アレン君はきっといい匂いがするのでしょうねv周りを惹きつける天然フェロモン発生中v
神田はそのなかでも特別の香りをかげて羨ましい!!
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